そりゃね、ああやって親切にしてあげるのはいいことだ、きみがうちの小学生の娘なら褒めるさ。でも世の中、そんな、いいやつばかりじゃないんだから、騙されないように気をつけなきゃだめですよ。課長、そんなこと言うと社内になんかまずい人がいるみたいじゃないですか。いや、そういう意味ではなくて、ただ、この人、あまりに無防備に人に良くするもんだから、心配になっちゃってさあ。 彼女はあいまいに笑って首をかしげる。彼女はちゃんと相手を選んで親切にしているつもりだ。それに、無防備ではない。彼女が信頼する特定の数名以外と対面するときにはいつも浅く椅子に腰掛け、テーブルとの隙間がじゅうぶんにあることを確認している。すなわち、鈍器で殴られそうになっても逃げられる距離感を保っている。もちろん、それが具体的に起きると思っているわけではない。ただ、そうなる可能性はいつだってあるのだと、そのように感じている。彼女にとって他者