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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (5)

  • 苦労知らずと呼ばれる勝利 - 傘をひらいて、空を

    そりゃね、ああやって親切にしてあげるのはいいことだ、きみがうちの小学生の娘なら褒めるさ。でも世の中、そんな、いいやつばかりじゃないんだから、騙されないように気をつけなきゃだめですよ。課長、そんなこと言うと社内になんかまずい人がいるみたいじゃないですか。いや、そういう意味ではなくて、ただ、この人、あまりに無防備に人に良くするもんだから、心配になっちゃってさあ。 彼女はあいまいに笑って首をかしげる。彼女はちゃんと相手を選んで親切にしているつもりだ。それに、無防備ではない。彼女が信頼する特定の数名以外と対面するときにはいつも浅く椅子に腰掛け、テーブルとの隙間がじゅうぶんにあることを確認している。すなわち、鈍器で殴られそうになっても逃げられる距離感を保っている。もちろん、それが具体的に起きると思っているわけではない。ただ、そうなる可能性はいつだってあるのだと、そのように感じている。彼女にとって他者

    苦労知らずと呼ばれる勝利 - 傘をひらいて、空を
  • みっともなくうろたえたい - 傘をひらいて、空を

    最近彼女ができまして、と彼は言った。私はおめでとうと言って拍手をした。 私は他人が誰かと親密になった話を聞くと高揚し、その人の肩をばんばんたたいて、「いいぞもっとやれ」と言いたくなる。祝福の気持ちにしては盛りあがりすぎなので、他人の私生活に関する話が好きなだけなんじゃないかと思う。下世話なのだ。 彼はでも、と付けたした。でも、この年になるとなんだかいろいろスムーズで、ちょっとかなしくもあるんですよ。 どういう意味でしょうと訊くと、彼は言う。 彼女とは仕事の関係で知りあったんですけど、すてきな人だなって思って、連絡先を渡すじゃないですか。で、メールを出したら感じのいいメールが返ってきて、何回かやりとりして、事に誘う。桜の時期だったから、少し散歩して観たりする。また事に誘う。「あなたと一緒にいると楽しい」という意味のことを伝えて反応をみる。嫌じゃなさそうだからもうちょっと踏みこんでみる。そ

    みっともなくうろたえたい - 傘をひらいて、空を
  • 価値を感じることができない - 傘をひらいて、空を

    そのとき私は十七歳で、スーパーマーケットのレジ打ちをしていた。その店には万引きを示す暗号があって、「まるいち」というのだった。それを伝言ゲーム式に伝えるのだ。私がアルバイトをしているあいだにその暗号を聞いたのは一度きりだった。私はなんだかどきどきしながら、それを同じレジにいた仲間に伝えた。 それから少し経って、控え室でポップを書いていると、帳簿をつけていた店長が、このあいだ万引きいたよね、と言った。いましたねと私はこたえた。店長は当時としても旧式の、大きなPCに向かったまま話した。 万引きの損害は痛いし、窃盗は犯罪だし、だから俺は腹を立てるわけだけどさ、子どもの、子どもっていうか高校生くらいまでの子の万引きって、気持ちの上で引きずることはないんだ。なんていうか、子どもの万引きは、商品が欲しくてやってるんじゃないのが大半で、ものがわかってなくってゲームっぽくやっちゃうとか、仲間がやれって言う

    価値を感じることができない - 傘をひらいて、空を
  • 作文が終わらない - 傘をひらいて、空を

    七つの女の子と話をしていたら、作文が終わらなくて困っているという。彼女は小さい子にしては要領よくしゃべるんだけれども、なにしろ七歳は七歳なので、話がくどい。しかもしょっちゅう脱線する。最後まで聞いて推測するに、どうやら何を書いて何を省くかがわからないので作文が長くなっている、ということらしかった。 学校の授業の作文で七五三の話を書くことにして、けれども原稿用紙六枚書いてもまだ、当日の朝ごはんが終わらない。メニューとその匂い、湯気のようす、パンの焼き加減の好みに関する主張で六枚目が終わってしまった。今までのぶんを捨てて書き直すべきか、という意味のことを、彼女は言う。読ませて頂戴と言うと、ずいぶんとはずかしがってから、結局読ませてくれた。 八枚切りのパンを焦げるぎりぎりのところまで熱してからバターを塗り、しみこませてべる、ジャムはパンに塗るべきではない、ヨーグルトにいっぱい入れたほうがいい、

    作文が終わらない - 傘をひらいて、空を
  • 蛙にしてはいけません - 傘をひらいて、空を

    別の部署から顔見知りの同僚がやってきて、はちにいぜろの件で、と言った。後ろの席の後輩が立ち上がって、ヤマザキさんですねとこたえ、出ていった。 午後を少し回ってから給湯室に立ち寄って昼を温めていると、後輩が通りかかって、マキノさんこれからですかあ、私もべます、と言う。後にコーヒーを淹れ、私たちは少しのあいだ黙ってそれをたのしんだ。たっぷりしたマグカップの中身が三分の二ばかり減ったころ、ヤマザキさん、と私は言った。ええヤマザキさんの件で打ち合わせしました、と後輩は言った。 ヤマザキさんはこの会社の関係者で、たびたび苦情を申し立てる人だった。担当部署では対応しきれず、とうとう関連部署から何人かが集まって対策会議をひらいたらしかった。 えらいねと私が言うと彼女は首をかしげて訊く。業務内容からして私がミーティングに出るの当たり前じゃないですか。そうじゃなくて、ヤマザキさんて呼ぶから、と私は言う

    蛙にしてはいけません - 傘をひらいて、空を
    isaisstillalive
    isaisstillalive 2011/09/01
    物凄く読みづらい文。「心ない名前で呼ぶのは呪いである」という話。逆もまたしかり
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