中国は今でもレストランの会食の席は食べ散らかしたゴミだらけ、いったんレストランを出ればところかまわず地面に痰を吐く――という「マナー後進国」だが、今から7、8年前北京に住んでいたころ、その中国人のマナーで感心させられたことがある。それは、バスや電車で老人に席を譲る意識の社会全体への浸透ぶりだ。 まだまだ道路が整備されていなかったから、中国のバスはよく揺れた。運転もどちらかと言うと荒いし、当時はまだ市内に今ほど地下鉄が普及しておらず、市民の主な交通手段はバスで、出勤・通勤時間帯はとても込み合っていた。座席を確保した人は誰しも席を離れたくないと思うだろうに、それでも老人が乗ってきたら誰もが「あー、座りなよ!」と、当然のように席を譲っていた。譲られる方も「ありがとねー」と、感謝の気持ちを顔いっぱいに表しながら座る。その様子がなんとも自然でほほえましく、見ていて「自分もそうしたい」と素直に思えた。