話題のベストセラー、三宅香帆「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」。誰もが読みたくなってしまう書名のインパクトもさることながら、日本人の仕事・労働と読書の関係を掘り下げたユニークな視点が示唆に富む一冊だ。今回は本書を、批評家/ライターでYouTuberの伏見瞬に評してもらった。 *Mikiki編集部 日本人が歓びのため読書した時代などなかった 本書は、自己啓発書のマスクをかぶった歴史書・批評書である。 批評家・三宅香帆は、読書好きの自分が就職して本が読めなくなった体験から、労働と読書の関係を考え始めたという。本書では、明治から現代にいたるまでの、日本における読書の社会的価値の変化について述べていく。明治では立身出世のために、エリート層にとって読書は必要な営為だった。大正では日露戦争以後の時流に端を発する社会不安から、社会主義を説く本が読まれた。戦後にはサラリーマンの娯楽として、バブル期に