「老人と棕櫚の木」(参照)は林秀彦六十八歳の小説。短編集ではない。長編とも言えない。ジャンルとしては私小説に近いのかもしれない。本人の自問によると「…それにしてもいま私は、この”物語”とも随想とも日記ともつかぬ文章を借りて、一体何を書きのこそうとしているのだろうか」とある。フィクションの仮面なくして表現しづらいことが描かれている。が、私小説のように受け取ってもいいのだろう。 おそらくこの作品は、私がここでちょうど一か月前に書いた「極東ブログ: [書評]女と別れた男たち(林秀彦)」(参照)の「P.S. I Love You...」の二十年後ということになるのだろう。 五十を前にした林は女優の妻と八歳ほどの娘を捨てて、二十八歳の女の元に走り、そして異国に出奔。二十年後、その女に捨てられた。「老人と棕櫚の木」の主題は、七十歳を前にした男が五十歳を前にした女に人生ともども捨てられた惨めさと未練であ