今年で実に100回目を迎えるフィギュア・スケート世界選手権は、男子は高橋大輔、女子は浅田真央の優勝で終わった。今シーズン最後の舞台で日本人選手が男女ともに表彰台の中央に上がった事は、誰もが納得できる結果であったといえよう。特に素晴らしかったのは浅田真央の作品であり、1年間かけて、ついにこの作品を完成させたわけである。 この『鐘』という浅田の作品は、フリー・スケーティングだけで独立したプログラムではない。実は、ショート・プログラムでさらにブラッシュ・アップされた『仮面舞踏会』とは通底したテーマがある。それは、浅田にとっての「死」を意識したメメント・モリ(Memento mori)的空間を身体化する行為だ。それを浅田はショート・プログラムでは『仮面舞踏会』の音楽と物語に乗せて、死にゆく人間の「死の舞踏」的狂気、乱舞、錯乱を、グリューネヴァルトのタブローのように、狂おうしくも美しく見事に演じ切り