新しい小説を公開します。お読みくださると、とても嬉しいです。 ************** ジジジジジ……ジジッ––––– かすかに擦れ音を立て、塊となった蝋燭の芯が倒れる。炎がすうぅっとかき消え、あとに濡れたような闇が残った。 「東風が強うござりますな。蔀戸《しとみど》を下げてもよろしゅうございますか、お姫さま」 蔀戸とは板造りの雨戸のようなもので、つっかえを取って下に落とせば、窓をおおい雨風をしのげる。 今日は朝から雲が低くたちこめ、室内は昼なお薄暗い。 午后からは、ことさら風が強くなった。都びとは、これは妖かしの祟りだと怯えたように噂している。 深草の女房は、不吉な噂に苛立ちを覚え、そんな自分を持て余した。 うわ目使いで姫をうかがう。 姫は時の権力者、藤原兼家を父にもち、常は『兼家の娘』と呼ばれている。しかし、たとえ彼の娘であっても、実母の身分が低い姫、自分の出世は望めぬだろう。 正