国道45号を挟んで、海岸から山手にかけて民家が建ち並ぶ岩手県釜石市嬉石(うれいし)地区。寝たきりの高齢者を助けようとした男性8人が津波にのまれ、その高齢者を含む4人が死亡・行方不明となった。「津波てんでんこ」の教訓を知っていながら救助に向かった生還者は「『てんでんこ』はやっぱりできない。ならばどうすれば良かったのか」と自問を続けている。【黒田阿紗子】 ◇まだ年寄りが 3月11日午後2時46分。市中心部で軽トラックを運転していた消防団員の佐々木俊介さん(52)は、激しい揺れに「大津波が来る」と直感した。ヘルメットと法被を身に着け約15キロ離れた自宅に戻ろうとしたが大渋滞に遭い途中の嬉石地区にある義父宅へ向かった。 義父と近所の高齢者を連れて一時避難場所の嬉石地区集会所にたどり着いたころ、時計は午後3時7分を示していた。集会所の人はまばら。ほとんどは、更に山手の市民交流センターへ逃げていた。