図書室を出たクマは、またいつもの桜並木をバス停に向かっていた。司書教諭との会話に示唆されるところはあったし、なにより初対面の彼女と自然に話が出来た事が嬉しかった。『あんな人が教鞭を執ればいいのに』とも考えたが、それは彼女が言うところの「月の裏側」の部分なのかも知れなかった。 見慣れた道の景色は先週と殆ど変わっていない。それは別段不思議な事ではない。しかし、事物を優しい気持ちで眺めることが出来た日々と今は明らかに何かが違う。 初夏の日差しに輝く新緑、草の香りを運ぶ風、沿道に置かれた色鮮やかな鉢植え。全てがよそよそしく他人行儀な冷たい顔をして自分を拒絶している。クマにはそう思えてならなかった。 『目に映る物すべてがナッパを思い出させる。だがこんな事をいつまでも続けていてはいけない』 クマは充分それを承知していた。しかし、そこから脱却するには更に長い時間が必要な事も事実であった。『唯、このまま無