『深海学 深海底希少金属と死んだクジラの教え』(ヘレン・スケールズ 著/林裕美子 訳)築地書館 現代において、もはや地上のどこにも人間が足を踏み入れていない土地は存在しない。「秘境」と呼べる場所は、ただのひとつだって残されていないのだ。……いや。地上から離れさえすれば、とっておきの秘境がひとつだけ残っている。水深200メートル以上、日光すらろくに届かない暗い暗い水の底――深海である。 地上に恐竜の生き残りはいなかった。だが深海ではシーラカンスが生き延びている。ドラゴンやユニコーンは実在しない。けれど海の底には伝説上の怪物クラーケンさながらのダイオウイカがたしかに生息している。人目に触れたことのない未知の生物も千種といるはずだ。 私自身もこの「最後の秘境」で新種の深海魚を探し出す興奮と喜びに取り憑かれている。これほどロマンに満ちた研究フィールドは他にありえない。 本書はそうした魅力的で果ての