2024年5月21日、山口県下関市で捕鯨船の出漁式が行われた。日本が国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)を脱退し商業捕鯨を再開して5年が経つが、今年の出漁式は例年になく華やいだものとなった。というのも、これまで約30年にわたって操業を支えてきた捕鯨母船が老朽化により退役し、新たに建造された母船「関鯨丸」の初出漁だからである。 式には地元選出の国会議員、自治体関係者などが出席。船主で捕鯨操業会社である共同船舶の所英樹社長は「新船建造は、沖合母船式捕鯨漁業を途絶えさせないという意志だ」と操業の決意を示した。 今年の操業がこれまでと異なっている点はもう一つある。これまで捕獲対象が大型鯨類の中でも相対的に小型であるミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ3種だったところ、今年から地球最大の動物、シロナガスクジラに次いで大型のナガスクジラを新た
獲れる魚の減少が止まらない。農林水産省統計によると、1984年に1282万トンだった漁業・養殖業生産量は、以下右肩下がりを続け、2022年現在で386万トンと、過去最低を更新した。国連食糧農業機関(FAO)統計によると、世界では漁業・養殖業生産量は右肩上がりを続け、直近のデータである21年現在史上最高の2億1837万8000トンを記録したのとは対照的である。 魚が獲れなければ、当然漁業者の収入はままならない。農林水産省「漁業経営に関する統計」によると、22年度現在沿岸漁船漁業漁家の漁労所得は僅か136万円である。なり手不足のため漁業者数は急速に減少しつつあり、農林水産省「漁業構造動態調査」によると、10年に20万2880人だった漁業就業者は、わずか12年で約4割も減少し、12万3100人となっている。 趣旨は良くできている「積立ぷらす」 多くの漁業者が漁獲量と収入の減収に苦しむなか、漁協の
サバが不漁に喘いでいる。「漁業情報サービスセンター」の統計によると、2023年のマサバ・ゴマサバ水揚量は21万トンと、19年の41万トンからほぼ半減した(図1)。昨年まで12年連続水揚げ日本一だった銚子漁港は、その座を釧路に明け渡した。イワシとともに水揚げの主力であるサバの水揚げが昨年の3万トンから1万7千トンへの半減したことがその要因だ。 青森県八戸市に本拠を有する水産加工業者も、今年早々青森地裁に自己破産を申請している。負債額は約2億1600万円。コロナ禍による受注減とともに八戸港でのサバの水揚げ不振が引き金になったという。各地の漁業者から「サバが獲れない」との声が聞こえる。 サバ資源への楽観的な評価 これまでわが国で実施されてきたサバに対する資源評価は楽観的なものだった。水産基本法第15条は「国は、水産資源の適切な保存及び管理に資するため、水産資源に関する調査及び研究その他必要な施策
昨年末、2024年度予算が閣議決定した。うち水産予算は前年度補正を併せて3169億円と、過去最高だった前年の3208億円(前年度補正含む)をやや下回るものの、3100億円台を維持した。18年度まで水産予算は2300~2400億円程度であったが、同年末に国会を通過した漁業法の改正に歩調を合わせ、予算は一気に増額した。 漁業法の改正で目指されたのは、科学的な資源管理に基づく水産資源の回復と水産業の持続的な発展であると言える。これまで国が資源評価対象としていたのは計50魚種で、漁獲総枠(「漁獲可能量(Total Allowable Catch: TAC)」と呼ばれる)を決めて管理を行っていたのは8種に過ぎなかった。 水産庁によると、資源評価対象を23年度までには200種程度に拡大(22年3月現在192種)するとともに、資源評価方法についても過去数十年のトレンドから「高位」・「中位」・「低位」と分
サバの水揚げの最盛期であるはずの秋は過ぎて12月も終盤。しかしながら、資源があると言われているサバはほとんど見つからずで、漁獲されてもほとんどが小サバ。不漁と魚の小型化は、資源が減っている時に起きる典型的なパターンです。 筆者は、日本およびその外側の公海上のサバなどの水産資源に関心を寄せる欧州連合(EU)やロシアなどの大手漁業会社に、国際フォーラムなどで説明する機会がある数少ない日本人です。その中で、資源量が多いと言っている日本のサバの資源評価(太平洋系群)は、過大評価である可能性が高いこと、資源評価自体が米国の海洋大気局(NOAA)から著しい改善が必要と指摘を受けていることなどを科学的なデータで説明しています。 サバ資源が少なく、かつ小サバばかりの漁場に大型の外国漁船が来て魚を獲り合えば、どの国にとっても不幸となり、未来もありません。 小サバでも高値「成長乱獲」が進む仕組み 日本のサバ資
東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会) 『日本の漁業が崩壊する本当の理由』、『魚はどこに消えた?』(ともにウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著、『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。
東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を薄めて海に放出を始めたことに対して、中国が日本産水産物の輸入を8月末から停止しています。そして1カ月が経過しました。 2022年の実績で467億円と、中国向け水産物で品目別に最も多かったホタテの輸出が滞る報道をご覧になった方は少なくないと思います。中国向けのホタテの金額は、全水産物3873億円の12%を占めていました。 近年、主要輸出先が水産物の輸入を停止されたよく似たケースがあります。最大の単一国家としての顧客であったロシアから輸入停止された、世界第2位の水産物輸出国であるノルウェーです。 ノルウェーの水産物輸出はどうなったか? 2014年3月にウクライナ領のクリミア半島が突如独立を宣言し、ロシアに併合されました。西側諸国はロシアに対する国際的な制裁開始。一方でロシア側も対抗措置を取り、その一つが欧米からの水産物輸入停止でした。 14年8月、ロ
2023年8月31日、水産庁は24年度予算の概算要求を発表した。デジタル庁計上分を含めると2587億円と、23年度の1919億円から大幅な増額である。水産予算は、18年度までは前年度補正を含めおよそ2300~2400億円で推移していたが、19年度には前年度補正含め約3000億円、22年度には3200億円と大幅に膨張している。 予算が19年度から一気に増額されたのは、その前年に国会を通過した漁業法の改正に伴って実施されることとなった水産改革がきっかけになっている。農林水産省の統計によると、1960年代初めには70万人近くいた漁業者は右肩下がりに減り続け、22年には12万3100人と過去最低を記録した。漁業・養殖業生産量も1984年の1280万トンをピークに、2022年はこちらも過去最低の385万8600トンまで落ち込んでいる。 要因の一つは、資源管理の失敗と「取り過ぎ」にある。政府も遅ればせ
大漁祈願で何とかならないサンマ漁 かつて毎年8月末頃から1尾100円前後で、売り場を埋め尽くしていた秋の風物詩サンマ。しかしながら、その光景はすでにありません。「今年こそは!」と期待しても、すでに諦めている方は少なくないはずです。 価格がクロマグロの初セリ価格のようになったサンマ。恒例の初セリ、2023年1月5日の豊洲市場でのクロマグロ(1尾212キロ)の初セリ価格は、キロ17万円でした。一方で23年8月19日の札幌市場でのサンマ(1ケース・約3キロ)の初セリはキロ23万円と、クロマグロの初セリのキロ単価を超えています。 共にご祝儀相場であり、極々例外な価格です。しかしサンマがクロマグロの価格を超えるなどというのは、数年前まではおよそ想像もつきませんでした。それだけ漁獲量が激減してしまい、サンマの価値が、大きく変わったということなのです。しかも、こうなった主要な原因は外国でも海水温上昇でも
8月24日に開始された福島第1原発関連の処理水の海洋放出をめぐって、中国側の異常な反応が目立つ。中国側は今年1月あたりからこの件について言及を開始し、すでに更迭された秦剛前外相も、今年3月の就任記者会見で明確に言及している。以降、処理水の海洋放出については、その安全性が科学的かつ客観的に担保されているにもかかわらず、中国側は日本に対する一方的で非科学的な論難を、次第にエスカレートさせてきた。 おそらく中国側が処理水について言及をはじめた背景には、日本が米国主導の対中半導体規制に協力し、また、台湾情勢についても中国の武力介入を許さない姿勢を明確化するなかで、対日牽制のカードとして利用する意味合いがあったと推測される。しかし、これは結果として中国にとっての悪手となった。 日本にとって、対中半導体規制や台湾問題と処理水の海洋放出はまったくの別問題であり、なんらの牽制効果もなかった。すると中国外交
日本の漁業が1970年代前半から80年代後半にかけて約20年もの間、世界一の漁獲量を誇っていたことをどれだけの方がご存知でしょうか? わが国は、戦後の食糧不足を補うべく、世界の海へ魚を求めて、漁場や魚種を開拓し食糧供給に多大な貢献をしてきました。そこで日本をはじめとする遠洋漁業国の影響を恐れて、1977年に設定されたのが、200海里漁業専管水域でした。 サンマ、スルメイカ、サケをはじめ数年前までは、一尾、一パイ、一切れ100円で販売されていた水産物の価格が、漁獲量の極端な減少で、2~3倍になっているケースが少なくありません。魚が減ると、鮮魚としてだけでなく、缶詰や冷凍食品など加工品の値上げにも波及して、家計を苦しめます。 魚が減るということは、単に第1次産業としての漁業が衰退するということに留まりません。水産加工業、物流業、金融業など、他産業も巻き込んで地方を衰退させてしまうのです。 20
2022年度の漁業・養殖業の生産統計が発表されました。漁業と養殖の合計数量が1956年に現行調査を開始して以来、初めて400万トンを下回り、過去最低記録を更新しました。 毎年生産量が減り続ける日本。世界全体では毎年増加しているので、世界的に見て極めて異例です。 前年比で7.5%の減。サバ類、カツオの水揚げが前年比で大幅に減少、サンマ、スルメイカ、タコ類が前年に続き、過去最低を更新したなどと報道されています。そして減少している原因は、回遊場所が沖合に移っているなどと、海水温の上昇が原因と報道されています。 確かに、海水温の変化は資源量に影響を与えます。しかしながら、もしそれが根本的な原因であれば、世界の他の海域でも同様に水揚げ量が減っているはずです。 世界中の海で、日本の海の周りだけが水温が上昇しているわけではありません。さらに言えば、他の海域でも同様に魚が減っているわけではありません。 F
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