先行公開日:2023.5.27 一般公開日:2023.6.17 王谷晶「東京都稲城市に次元の扉が開いて十年が経った」 7,551字 寮から職場まではのんびり歩くと十分くらいかかってしまう。自転車に乗っている同僚もいるくらいだ。ヒロシは急いでいた。寝坊をした。ほぼ部屋着のまま従業員しか通らない裏道を走るその顔を、建ち並ぶ色鮮やかな透明のビルを通過した太陽の光が青、オレンジ、緑、ピンクなどに染めていく。 従業員通用口から中に入り、ロッカールームで急いで制服に着替える。制服というか作業着と言ったほうがいいようなそっけないツナギに、これまた農協のおっちゃんが被っているようなそっけないキャップを被る。テーマパークの従業員というと派手なコスチュームを思い浮かべるが、こういう格好のほうがかれらにウケがいいのだと教わった。 名札を付け、翻訳用のタブレットが充電されているか確認し、同じシフトの数人と会釈で挨