私は講義で,犯罪や自殺など「そっち系」の話をよくするのですが,「世界で一番ヤバい国はどこですか」と学生さんに聞かれることが多いです。ここでいう「ヤバい」というのは,治安が悪いという意味でしょう。 治安の良し悪しを測る指標としてまず思いつくのは犯罪率ですが,どの社会においても,犯罪の多くはコソ泥であり,ちょっと物騒な国では強盗というところです。これらの場合,実際に起きていても当局に認知されない「暗数」や,統計のとり方の基準というような問題が付きまといます。後者についていうと,窃盗と強盗の線引きとかは,ビミョーな要素を含んでいます。 しかるに,こうした問題の度合いが低い罪種が一つあります。それは殺人(homicide)です。殺人の場合,実際に起きた事件の大半が警察に認知されるとみてよいでしょう。血まみれの死体が転がっているわけですから。 私は,UNODC(国連薬物犯罪事務所)の原統計にあたって