何かと話題の吉田修一『悪人』を読んだ。私は吉田の「パーク・ライフ」をまったく評価していないし、『パレード』もどうということはなかった。前者は芥川賞、後者は山本周五郎賞受賞作で、『悪人』はある意味最高峰の一つである大佛次郎賞、そして毎日出版文化賞を受賞している。大佛賞は、学者であれば60過ぎの大物でなければ貰えないものである。といっても吉田は受賞時41で、同年で受賞した学者もいる。 『悪人』は、ほぼ予想どおり、通俗小説であった。推理小説というより犯罪小説で、人情話でもある。しかしこのところ、純文学作家が、宮部みゆきばりの犯罪小説を書くというのがはやっているのは、純文学の行き詰まりの一端を示していると言えよう。実際これを、作者名を隠して読ませたら、多くの人が宮部と答えるのではないかとすら思う。 長編推理小説にはどれでも一つはミスがあると言われるが、これの場合、ほとんど現代版『砂の器』で、殺人の