森林総合研究所主任研究員 高梨琢磨 夏の音といえば、セミの鳴き声を想像する方が多いのではないでしょうか。昆虫はこのような空気を伝わる音だけでなく、固体を伝わる「振動」も利用しています。今日は、まず昆虫において振動の情報がどう使われるのか、次に私が研究対象としている甲虫類の振動の受容について、そして応用例として振動を用いた害虫防除についてお話しします。 振動情報は大きく分けると3つの関係の中で重要な働きをしています。1つめが捕食者─被食者間、つまり、食うもの、食われるもの関係、2つめが異性・同性間、つまりオスとメスの関係、そして3つめが社会・共生、つまり仲間同士の関係です。1つめの捕食者─被食者関係の典型例として、捕食者の寄生バチが利用する振動情報があげられます。 ヒメコバチ科の寄生バチは、ガの幼虫に卵を産みますが、このガは葉の内部にいるため視覚では探せません。そのため、ガの幼虫が運動時