『伽婢子《おとぎぼうこ》』[浅井了意作、寛文六(一六六六)年刊]巻三の三「牡丹灯籠」 ※国文学研究資料館所蔵 (CC BY-SA) 新日本古典籍総合データベース 【原文】 日も暮れ方に万寿寺《まんじゆじ》に入りて暫《しばら》く休みつゝ、浴室《よくしつ》《ふろや》の後ろを北に行きて見れバ、物古《ものふ》りたる魂屋《たまヤ》有り。 差し寄りて見れバ、棺《くハん》の表《おもて》に、 「二階堂左衛門尉政宣《にかいどうさゑもんのじようまさのぶ》が息女《そくぢよ》弥子《いやこ》吟松院冷月禅定尼《ぎんセうゐんれいげつゼんでうに》」 と有り。 傍《かたハ》らに古き伽婢子《とぎぼうこ》有り。 後ろに「浅茅《あさぢ》」と言ふ名を書きたり。 棺の前に牡丹花《ぼたんくハ》の燈籠《とうろう》の古きを掛けたり。 「疑ひも無く是ぞ」 と思ふに、身の毛 弥立《よだ》ちて恐ろしく、跡を見返らず、寺を走り出て帰り、此の日頃