気候危機に対する新たな視点を、少なくとも日本に住むいくばくかの人たちに受け取ってもらえれば──カール・マルクスと環境危機、そして脱成長(デ・グロース)経済への提言を扱った原稿を提出したとき、研究者の斎藤幸平はそう願っていた。 それから3年が経ち、著書『人新世の「資本論」』は50万冊以上を売り上げ、36歳の俊英はいまやマルクス主義の名士とも呼ぶべき存在となった。 東京の研究室からズームで取材に応じてくれた斎藤は、「これは大きな驚きでした」と語る。「マルクスと共産主義の話なんか、誰も興味ないだろうと思っていましたから」 自分は最初から「脱成長コミュニスト」であったわけではないと語る斎藤だが、つい最近、前作よりも学術的な著書『人新世のマルクス:脱成長のコミュニズムへの道』(未邦訳)を書き上げた。同書は脱成長コミュニズムを「新たな生き方」として提示する議論のうえに成り立っている。