昨年の暮れ、神保町の古書店で白川静「中国古代の民俗」(講談社学術文庫)を手に入れた。白川静の著書のうちでもあまり知られていないものだが、日本民俗学の方法を中国と日本の古代歌謡に適用するという白川学のモチーフが丁寧に説明されている。 注目は、冒頭の「わが国の民俗学」だ。ここで日本民俗学の一方の源流である柳田国男を「一国民俗学の立場は、その出発において、すでに困難な問題を追うものであった」と厳しく批判し、柳田の静的な民俗学ではなく折口的なダイナミックに起源を志向する方法を採用することを明確にしている。 柳田の一国主義は幕末の尊皇攘夷的国学の流れから来ているのではないか。私は以前から柳田の「常民」絶対視は復古的な反動思想の一種だとにらんでいたから、白川が一国民俗学を強く否定したことは大いに腑に落ちた。 日本というのは成立以来ずっと中国文明の周辺文明であり、明治以後は西欧文明の周辺文明となった。周