「アインシュタインと散歩していたとき,彼は不意に足を止め,私のほうを向いて『君は,君が見上げているときだけ月が存在していると本当に信じるのか?』と尋ねた」 ──物理学者A. パイス 2015年,欧米の3つの研究グループがそれぞれ,ある極めて困難な実験に挑んだ。それはある意味,やる前から結果がわかっていた実験であった。少なくとも量子論の理論家たちは何年も前から自信をもって結果を予想していたし,もしも予想外の実験結果が出たら現代物理学を根底から揺るがすことになっていただろう。幸いにも,実験の結果は理論の予想どおりであった。しかし,この実験結果を知って安心したのは,現代の量子論の研究者だけである。量子論を知らない人にとっては信じがたい結果であろうし,もしもアインシュタインが生きていてこの実験結果を知ったら,驚くというよりも,自分の夢が破れたことをはっきりと悟ったことだろう。 アインシュタインは,