1 いいかげん車を買わなくてはいけない。子どもが生まれて数ヶ月経ち、移動手段を持っていないことにだんだんと不便さを感じるようになった。雨の日に家族揃って出かけるのが難しいし、外出先では授乳スペースを探すのに時間がかかった。息子が成長すれば学校や習い事の送迎などで車を使うだろう。なにより「運転できない」という事実に、私は社会に対してどこか後ろめたさを感じていた。やはりタイヤが四つ付いた乗り物を所有しなければいけないようだ。しかし、恐ろしいことに私と妻は車をほとんど運転しない。免許証は両者ともピカピカのゴールドである。 「とりあえず、車屋さんへ行ってみよう」1月初旬のことだった。幸い、近くには何件か中古車販売店があった。それまでは「車がいっぱい置いてあるな」としか認識していなかった場所だった。私はママチャリでA店に行った。駐輪場らしきスペースはなく、適当なところに停めた。すると、店内にいる人間