小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio 9月2日、味の素スタジアム。FC東京戦を終えた後の記者会見で、サガン鳥栖のマッシモ・フィッカデンティ監督は、試合を端的にこう説明している。 「Molta tattica」(極めて戦術的) 鳥栖は自陣で守りを固め、スペースを埋め、裏を消した。ボールを失う危険を避け、前線の選手を縦に走らせるボールを蹴った。徹底したリスクマネジメントのサッカーを敢行している。 対するFC東京も基本的にはリアクションサッカーだ。リトリートしながら、DF、MFの2枚のラインの間をコンパクトに保ち、侵入を許さない。ボールを支配する時間は長かったものの、攻撃はカウンターに頼っている。 結果的に試合は膠着した。攻め急ぎ、攻めあぐねる。客観的視点ではそう捉えられた。 「観客にとっては、つまらない試
「皇帝」 その昔、そんな称号が冠せられたロシア人プレーヤーがいた。アレクサンダー・モストボイは、ピッチの統治者だった。 「俺のパスがなぜ通るのか? パスコースなんてもんは、たいていは塞がれているのさ。だから技術だけがあってもパスは通らない。どれだけ足が速くても、腕っぷしが強くたって役立たないね。パスコースはさ、作るんだよ。"時間を操って"な」 そのとき、皇帝モストボイが浮かべた笑みは幻惑的だった。それは叙情的な表現ではない。事実、モストボイは空間を我がものとし、時間を操れるからこそ、皇帝と呼ばれたのである。 「なぜか通るパス」 「通りそうで通らないパス」 その二つにある大きな差とはなにか? モストボイはトラップした瞬間、相手が飛び込めない場所にボールを置くこともあるし、あえて飛び込ませてかわすコントロールをすることがあった。その点、彼はなによりもボールを支配していたし、相手選手を手のひらで
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