あれはブナの木々が烈風にしなる冬の日だった。カナダ国境に近い小さな村、ハーツロケーション。全米に先駆けて予備選挙を行うニューハンプシャー州でも、雪に埋もれたこの村は、午前0時を期して40人ほどの村人が一斉に投票する。「全米でいちばん早く大統領を選ぶ村」なのである。投票日を前にした対話集会にはほぼすべての住民が集まってきた。民主党の大統領候補選びで、現職のアル・ゴア副大統領に挑むビル・ブラッドレー元上院議員と議論を交わすためだった。 「アメリカは豊かさのゆえに偉大なのではない。その豊かさを良きことに振り向けるがゆえに偉大なのだ」 幾多の財政改革を手がけてきたブラッドレー元議員は、連邦税が死ぬほど嫌いな村人を前に「貧しき人々のためにこそ血税を」と語りかけ、熱い討論は夜が更けても続けられた。ブッシュ対ゴアの歴史的接戦となった2000年選挙での出来事だった。 「アメリカのデモクラシーの良き伝統とは