ハンドメードの腕時計がはやっている。だが、その多くはクオーツ基盤を利用したものだ。ぜんまい仕掛けの機械式腕時計をゼロから設計し、部品をはじめ全て手作業で作り上げる職人は数少ない。その中の一人、菊野昌宏は「独立時計師協会正会員」の日本人第1号という肩書を持つ。まだ33歳という若さなのに。現在は1個1800万円(税別)の最新作を制作中。千葉県船橋市の工房を訪ねた。 【写真】昨春発表された菊野さんの快作「和時計・改」 暗色の作務衣(さむえ)に身を包み、作業台に向かう姿からは独特の雰囲気が漂う。若き日の夏目漱石といった風姿。「完全受注で腕時計を作っています。今は“和時計・改”を制作中で、制作期間は約1年。もちろん1個で、ですけど」。気難しい職人のイメージは全くなく、その口調は果てしなく柔らかい。 和時計・改は、腕時計の国際的見本市・バーゼルワールド(スイス)で昨年春に発表された菊野の快作だ。江