ぼくは「言いたいこと」をあまり持っていない。 たとえば「いま国会を賑わせているあの問題について、お前はなにも言いたいことがないのか」と問われたら、たぶん「ない」と答える。なんと嘆かわしいやつだ、お前のような人間がいるからこの国の民主主義は……とかなんとか言われても、ないものはない。「言いたいこと」は、ないのだ。 ただし、「思っていること」はたくさんある。政治にかぎらず、経済であれ、社会問題であれ、芸術やスポーツまわりのことであれ、「思っていること」は山ほどある。けれどもきっと、ぼくは「思う」と「言う」のあいだの距離が、騒々しく忙しい人よりずっと遠いのだ。 なので、「思う」と「言う」がぴったりくっついた、「思う」と「言う」のあいだになんの距離も感じさせない人を見ると、単純におもしろいし、あこがれる気持ちもある。あんだけしゃべれたらさぞかし気持ちいいだろうなあ、とバイリンガルを眺める中学生のよ