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ブックマーク / hankinren.hatenadiary.org (5)

  •  恋ニ酔ヒ、愛ニ死ス ―「らも 中島らもとの35年」 中島美代子・著 ― - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    「中島らもが、死んだ」 平行線のままのどうしようもなく暗い話の最中、ふいに電話の向こうの男がそう言った。 電話の相手は、私が19歳の時に出会った私の初めての男。私はその頃、彼に貸す為に借りたサラ金の返済がどうにもならなくなり、全てが親にバレて実家に戻って罪悪感と自分自身の愚かさと未来の見えなさでグチャグチャになっていた。それでも何とか金を少しでも返して貰えないだろうかと知人を通じて彼に交渉していた。直接話すと私は「負けて」しまうから知人に間に入って貰ったのだ。 知人から連絡が来た彼は逆ギレして私に電話をかけてきた。「返して」「無いものは返せない、それに俺はお前の欲しいものを与えてやってたじゃないか」何十回も繰り返したどうしようもないやりとりにお互いうんざりし疲れてしまい沈黙が訪れた。私は泣き疲れ怒鳴り疲れていた。その沈黙を破り、ふいに彼が中島らもの死を告げたのだ。 彼は一時期、小説家になる

     恋ニ酔ヒ、愛ニ死ス ―「らも 中島らもとの35年」 中島美代子・著 ― - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  •  強い彼女 - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    彼女は強い人だ。 おそらく、私が今まで出会った人の中で、一番強い人だ。 彼女は女手一つで世の中を生き抜いて事業を成功させており、情に厚く率直で裏表が無く、周りの人からの信頼も厚い。結婚こそはしていないが信頼できるパートナーもいるようだ。卑屈なところが無く明るく陽気で、地位はあるけれども偉ぶらない彼女を羨む人はいるけれども今のところは彼女を嫌いな人に私は出会ったことがない。 生きることを楽しむ彼女は実年齢より10歳は若く見える。お洒落で読書家で社交的で前向きでパワフルな彼女。彼女はとても強い人だ。そして彼女は弱い人間が嫌いだ。 彼女は健康の為に、酒も煙草も止めた。そんな自分の意思の強さを誇らげに人に話す。 彼女はいろんなことと戦って、人より苦しい思いもして生きてきた。戦っていろんなものを手に入れてきた。彼女は強い、当に強い人だ。勝ち続けて生きていくことは、並大抵のことじゃない。相当に辛いこ

     強い彼女 - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  • この胸の痛みも、いつかは - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    葉書の整理をしていた。その中に、結婚を知らせる一枚の葉書を見つけた。私は恐々と、その葉書を手にした。そこには平凡な一組の夫婦の写真があった。私は、ずっと、相当永い間、この葉書を正視することが出来なかったのだ。その葉書が来た時に、その二人が結婚することはわかっていたけれども、自分でも思いがけないほどの衝撃を受け目の前が真っ暗になった。 何故衝撃を受けたのか。それは、その夫婦の男の方が好きで、女に嫉妬して、、、、と、いう単純な話とは、ちょっと違う。私は、その女が嫌いだった。憎んでいたと言ってもいい。大嫌いだった。憎んでいることに気付かず、しばらくの間「友達」のフリをしていた時期もあった。 その女は「いい人」で、皆に好かれているように私の目には見えた。いろんなことが、人より「ちょっと駄目」な所も、「ちょっと駄目だけど一生懸命な頑張り屋さん」な所も、「無邪気で純粋」な所も、完璧じゃないからこそ好感

    この胸の痛みも、いつかは - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  • 去年の桜・その4 - 花房観音  「歌餓鬼抄」

    私は走り続けた。悩む暇も落ち込む暇も無く。 盆正月GWも休日出勤を頼まれたら断ったことは無かったし平日に派遣で行っている会社の仕事が無ければホテルでのお運びや厨房の手伝いスーパーの試品のマネキン、勿論バスガイドも添乗員も仕事がくれば全て受けた。派遣で行っている会社に勤める前には営業もしたし立ちっ放しで足が棒になる工場勤めもやった。田舎仕事が限られる。職安に行っても30過ぎで学歴も資格も無い女の仕事は限られている。しかし限られているけれども無いことはないのだ。「自分に都合のいい仕事」を選ばなければ、ただ金を貰う為だけなら何か仕事はある。例え時給が安くても。だから一つの仕事だけしかしていないという時期はほとんど無かった。常に副業をしていた。何も無い私が家を出る為のお金を貯めようと思ったら人の倍働くしかない。人が嫌がる仕事も引き受ける。朝早い仕事も急な出張も酔っ払いの相手みたいな仕事も全部引

    去年の桜・その4 - 花房観音  「歌餓鬼抄」
  • 藩金蓮の「アダルトビデオ調教日記」 - うんざりするような優しさで

    以前、SMクラブに面接に行ったことがある。その頃私は、SMの真似事で、ある男の奴隷になっていた。 奴隷の真似事は何度かやってみたが、いつもどこか頭が冷めていた部分があることを自覚していたので、自分はマゾのつもりなんだが当はそうじゃないような気もしていたし試しに女王様でもやってみようかと思ったのだ。勿論、お金の為というのが一番だったけれども。 そして結局女王様にはなれなかった。歓楽街の中のごく普通のマンションの一室で、ご主人様に貰ったマニア雑誌で見つけた広告に出ていたSMクラブに電話をかけて、そこのママに「面接」をしていただいていろいろ身の上話をしているうちに私はボロボロ泣いていた。 男に言われるままに金を貸し続けてサラ金地獄に陥っていると、その当時は恥ずかしくて誰にも言えなかった話をするとママは私に、 「優しいのね。」 と、言った。 そう言われて私は、その時初めて会った「女王様」の前で、

    藩金蓮の「アダルトビデオ調教日記」 - うんざりするような優しさで
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