本文 渋谷駅に降り立ったわたしは、山形に戻って以来数年ぶりに目にする風景を前にして、これほどうるさかっただろうかと首を傾げた。声に声が重なって、音に音が上書きされて、喧噪が重力のように身体にまとわりつく。なんだか少し熱っぽい気がするのはきっと、身体の中で東京への抗体反応が起こっているせいだろう。 友達が死んだ。 人波に溺れながら、なんとか道玄坂にある昔なじみの店まで辿りついて、ひと息ついた。店員が顔を覚えていてくれたことが嬉しくて、変わらないねと言ってくれたことがもっと嬉しくて、他の仲間が揃ってるのを見てさらに嬉しくなった。今日は嬉しくなることがたくさんある。集まった理由を除けば。 その友達とは疎遠になっていた。東京にいた時はよく一緒に遊んでいたけど、わたしが山形に戻ってからはだんだん連絡をとる回数が減り、ここ2年ほどは電話もメールもなくなった。ケンカしたわけでも嫌いになったわけでもない。