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ブックマーク / d.hatena.ne.jp/zoot32 (6)

  • The Last Supper - 空中キャンプ

    その日、お父さんが潜んでいた場所はアポッターバードだとニュースは伝えていたが、それは真実ではない。私たちが住んでいたのは世田谷区の小さな一軒家だったし、彼は四月二十九日の午後六時、下北沢駅の西口にあるオリジン弁当の前で拉致されたのだった。チキン南蛮弁当と、小松菜と舞茸のおひたしを買って出てきたお父さんは、店の前に絶妙のタイミングですべり込んできた作業用バンにほんの数秒で手際よく押し込まれ、車内で待ちかまえる五人の特殊部隊に両手両足をぐるぐる巻きにされると、甲州街道を経由して横田飛行場まで連れていかれた。その後のことはよくわかっていない。ことによると、生きたまま飛行機でアポッターバードへ連れていかれたのかもしれないし、横田へ着く前に死んでしまったのかもしれない。 私はそんなあれこれを、日にいるお父さんの友だちを通して知ることになる。「横田に着いてからのことは調べようがないし、ほとんど情報は

  • アイコ六歳 - 空中キャンプ

    私はマクドナルドべたことがない。音羽から竹橋へと向かういつもの帰り道、目白通りをゆっくりと走る車の窓から、赤地に黄色で大書きされたMの文字を眺めては、あれはいったいどんなべものなんだろうと考えを巡らせる。ガラス越しに見える店内には、座りごこちのわるそうな椅子や、いくぶん安定性に欠けたテーブルがあって、たくさんの子どもたちがハンバーガーをべたり、おまけについてきたプラスチックのおもちゃで遊んだりしている。そんなようすを見ていると、なんだか自分だけが取り残されたような気持ちになってしまう。私にはまだ知らないことがたくさんあるのだ。 私に会った人はみな、ずいぶんしっかりした話し方をする子なんですね、という。それがなんだかちょっと癪にさわる。もっとばかみたいな口調で話すとでもおもっていたのかしら。自分でこんなことをいうのもおかしな話だけれど、私ほど「自分は何者であるか」について考え抜いてき

    アイコ六歳 - 空中キャンプ
  • 『レスラー』を見たゼ! - 空中キャンプ

    渋谷にて。初日。ちょうさいこう! すばらしかったです。完全に打ちのめされて、ふらふらになりながら劇場を後にする。とてもいい映画でした。ミッキー・ロークも、自身の半生を重ねあわせるような役柄がみごとなリアリティをもたらしていた。とても立体的に、ひとりの人間のかたちが描かれ、そこにある孤独や苦悩が伝わってくる。途中からは涙が止まりませんでした。 われわれは、たくさんのものごとを失いながら生きていくことを受け入れなくてはならず、だからこそ、この映画の主人公は観客ひとりひとりの姿でもあり、まるで鏡のようにわれわれ自身を写しだす。取り返しのつかない失敗や、ひりひりするような孤独、失ってしまった信頼。主人公には、どんなに苦しいことがあっても、それを相談できる相手がおらず、たったひとり、会話のできそうなストリッパーの女性のもとにでかけていっては「客と個人的な接触はできない」とすげなく断られてしまう。かつ

    『レスラー』を見たゼ! - 空中キャンプ
  • Middlesex - 空中キャンプ

    わたしの働いている会社のイギリス支社は、ロンドンの Middlesex というところにある。入社いらい、この土地へ何百トンの貨物を送ったかわからないが、あいかわらず、この地名にだけはどうしても慣れない。ミドルセックス。わたしは、ここの住所を書類に書いたり、パソコンでタイプしたりするとき、ひとりごとのように、かならず呟いてしまう。 「Middle... Sex」 いったい、ここの住人はどんな気持ちなのだろう。すっかり慣れきって、もはや麻痺してなにも感じなくなっているのだろうか。よくわからない。ただし、小学生たちはおおよろこびである。見てきたわけではないが、これだけは確実にいえる。クラスでは、ばかな男子が黒板の前に立って、自らの住む土地の名前を、何度もうれしそうに大声で叫ぶのだ。そうしたようすが、ありありと想像できる。 「俺たちの住んでるのは、ミドル、セーックス!!」 「ちょっとー、やめなさい

    Middlesex - 空中キャンプ
  • 『トウキョウソナタ』を見たゼ! - 空中キャンプ

    恵比寿にて。初日。黒沢清新作。すごくよかったです! 最高! いやー、これびっくりした。上映のあいだ、二時間(119分)ずっと、「俺は今、なんかこう、たとえようもなくすごい映画を見ているんじゃないか…」という気持ちで興奮し、はらはらしてしまいました。ストーリーじたいは決してドラマティックではない、シンプルな生活の描写なのだが、すごい強度で、何度も胸を打たれてしまう。すばらしい。 これは、家族としての機能をほとんど停止してしまった家族の物語で、家族を構成する四人はみな、家族というシステムに耐えきれず、そこから逃避している。家族がしんどい。この人たちと一緒に暮らし、卓を囲み、同じ時間を共有していくことの意味がわからない。わたしがこうした描写に打たれてしまうのは、わたし自身にとっても、やはり家族とは混沌としたもので、ときに珍妙だとおもうし、めんどくさかったり頭にきたりするためであり、ほんとうに家

    『トウキョウソナタ』を見たゼ! - 空中キャンプ
  • 雪男 - 空中キャンプ

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