2016年1月14日、村上春樹さんから、レイモンド・チャンドラー『プレイバック』の翻訳原稿が届く。翻訳用の原書を送ったのが2014年末だったので1年強での訳了ということになる。 村上さんの原稿はいつも突然に届く。そもそも締切をきちんと決めていないうえに、怠惰なこちらもあまり進み具合を尋ねたりしないので、なるべくして突然なのだ。今回、村上事務所から「訳稿を送ります」というメールが届いたときは、よい意味で「不意打ち」を食らったように動揺して、自分のデスクですっくと立ち上がってしまった。普段は締切ありきで仕事している編集者には、文字通りのサプライズなのだ。締切日に届かない原稿だってたくさんある。 レイモンド・チャンドラー(1888-1959)は、村上さんがみずからの文学的ルーツのひとつと認めるアメリカ作家だ。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公にしたシリーズと比喩を多用する特徴的な文体で知られ、
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