「総裁、私は量的緩和を拡大すべきではないと思います。効果が見込めません」 2003年秋、日銀総裁室。金融政策担当理事の白川方明が、総裁の福井俊彦にそう直言すると、居合わせた数人の幹部に緊張が走った。 「量的緩和に一定の効果はある」。福井は首を縦にふらなかった。 量的緩和政策は、01年、福井の前任の総裁、速水優の時代に導入された。金利を目標に政策を行うのではなく、民間銀行が日銀の当座預金に置いている「資金量」を目標にする政策に切り替えたのだ。 ゼロ金利に戻る中での窮余の策ではあった。ただ、資金量をじゃぶじゃぶにすれば、民間への融資に回ったり、株式などへの投資に回ったりして、経済が活性化するのではないか。そんな期待も背負っていた。 当初の5兆円の目標を段階的に引き上げ、03年に福井が総裁に就任したときは15~20兆円に膨らんでいた。 白川も、量的緩和に全く効果がないと思っていたわけではない。市