古本好きなら、誰しも斎藤昌三の名前はご存じだろう。いまも高額の古書価で取り引きされることの多い「ゲテ装本」を作った人として知られている。本書でもゲテ装本の一部はカラーページを設けて紹介しておいた。ゲテ装本とは通常、本造りでは使わない酒ぶくろ、蚊帳、竹皮、風呂敷といった実物をそのまま装幀に使用した、風変わりな本のこと。番傘の油紙で装幀した昌三の著書『書痴の散歩』を前にした民俗学者の柳田國男が「下手もの趣味もここまで来ては頂上だ」と洩らすと、この言葉を気に入った昌三は、こうした本を自ら「ゲテ装本」と称した…..という話も、「日本の古本屋」のメルマガ読者なら先刻ご承知かもしれない。 ならば、そんなゲテ装本を数多く作った書物展望社社主にして名編集者の斎藤昌三とはどんな人物だったのか。一旦調べはじめたら、出てくるわ出てくるわ、これまで知られていなかった出版史・文学史・趣味の歴史のエピソードが山のよう