いいニュースも悪いニュースも、今となっては別の世界のできごとのように思い出される00年代の終わり。そのころアニメやライトノベルに親しんでいた人にとって、『とらドラ!』はきっと特別なタイトルのひとつとして記憶されていることだろう。同作を世に送り出した小説家・竹宮ゆゆこは、このところ一般文芸の世界で新たな地平を切り拓いている。ライトノベル時代から際立っていた独創的な人物造形や、中毒性の高いグルーヴィーな文体はさらに研ぎ澄まされ、強烈なまでの引力で読者を物語の世界へと誘っていく。 最新作の『いいからしばらく黙ってろ!』は、そんな竹宮作品のエッセンスが惜しげもなく注ぎ込まれた青春小説の傑作だ。友人、就職先、そして婚約者と、なにもかもを失って大学を卒業した龍岡富士は、ふとしたきっかけで崩壊寸前の小劇団「バーバリアン・スキル」に転がり込む。個性的な劇団員たちに振り回されながら、自分なりの“野蛮人の技術