人けのない山あいの集落で、川のせせらぎや虫の音が奇妙なほど大きく響く。細く曲がりくねった峠道の先にある宮城県七ケ宿(しちかしゅく)町の稲子(いなご)集落は今年、住民が1人になって初めての春を迎えた。ソメイヨシノは枝が折れたまま花を咲かせ、それを気にかける人の姿はない。かつて「足軽の里」として栄えた集落は、その歴史の幕を閉じようとしている。 稲子集落は、仙台藩が1681年に藩境警備のため足軽10戸を住まわせたのが始まりとされる。その子孫の住民たちは林業を主ななりわいに、1960年には最多の127人が暮らし、73年までは小学校の分校もあった。