「海は見たくない。もう二度と立たない」 そう思っていた。でも、夫に誘われ、久しぶりに海辺に立った。そこには、かきの養殖再起に向けて、共同でいかだづくりに励む仲間たちの姿があった。 「正直なところ、気持ちが少し吹っ切れた部分があるんですよ。こんなに皆が頑張っているんだという姿を初めて見て、自分も少し前向きになれた。またお父さん(夫)や皆と一緒に仕事ができるんだという希望も持てたんです」 そう話すのは、岩手県山田町の仮設住宅に夫の甲斐谷郁朗さん(57才)と住むトヨ子さん(52才)。夫妻は、20年余り前から一緒に、かき、ほたての養殖を行ってきた。昨年7月に入居した仮設住宅は、6畳と4.5畳、6畳キッチンが縦に並ぶ間取りの住宅だ。 「仕事がないから、狭い部屋に半日ポツンといて、テレビを見ている。いままで50坪の家にいたから、ここは圧迫感があってね…」 かきの養殖は時間がかかる。湾にいかだを浮かべて