齊藤 美保 日経ビジネス記者 2011年中央大学法学部卒業。同年、日本経済新聞社に入社。産業部にて電機、IT、自動車業界を担当した後に、2014年3月から日経ビジネス編集部に出向。精密業界を中心に製造業全般を担当する。 この著者の記事を見る
世間を驚かせたKADOKAWAとドワンゴの経営統合。「日の丸連合でグーグルなどIT列強に対抗」「クール・ジャパンを推進」と評する向きが多いが、その解釈に違和感を覚えた。確かにそう言えないこともないが、ドワンゴの川上量生会長を取材してきた身としては、「対抗」「推進」といったいかにも官僚が考えそうな文言と、川上会長のキャラクターとのずれを感じざるを得なかったのだ。そして5月末、川上会長と話す機会があり、違和感の理由がはっきりとした。 5月14日午後、東京・銀座の歌舞伎座タワーに入居するドワンゴ本社。KADOKAWAと10月に経営統合する旨が川上会長から伝えられると、居並ぶ社員から「あぁ…」とため息がこぼれた。といっても、経営統合自体への落胆ではない。持ち株会社の社名が単に2社の名前をつなげた「KADOKAWA・DWANGO」になることに対してだ。 川上会長はネット上で「kawango(カワンゴ
ライフネット生命保険が営業を開始して約1年が過ぎた2009年夏のことです。20代の社員に突然こう言われました。「出口さん、この日、1時間ほど時間を空けておいてください」。いったい何の用だろう。と思いつつ、私は、「いいですよ」と答えました。 前日、私は彼に聞きました。 「明日、時間は取ってあるけど、何をするんだっけ」 その若い社員はこう言いました。 「インターネットでのPR企画のため、二子玉川へ行って、多摩川の河川敷に降りてください」 「でえ、何をするんだい?」 「まずですね。今回の企画を考えてくれたウェブマガジン、デイリーポータルZのウェブマスター林雄司さんが、死亡保険に加入しよう、と河川敷に待ち受けています」 デイリーポータルZ? 何だ、それ? ヒーローロボット? 「それで、ですね。この林さんが、3枚の紙皿にそれぞれ、1,000万円、2,000万円、3,000万円と、死亡時の受取金額を書
インターネットが存在する前の世界は、個人や地域や国家は、それぞれバラバラだった。バラバラに孤立したまま、それぞれの形で成長したり崩壊したりした。近代のビジネスというのは、そうした孤立していたものを、つなげるところに価値があった。孤立した生産地と消費地をつなげる貿易があり、交通があり、流通があった。メディアもまた、表現者と観客・読者の間をつなげる存在して出版社やテレビ局や興行主がいた。近代ビジネスとは、つなげる存在であり、空白さえあれば、グローバルにつなげることができた。 インターネットとは、回線によって孤立した者同士を直接つなげることである。この10年間は、生産者と消費者が、ホテルと宿泊客が、発信者と受信者が直接つながることによって、中間に存在していた近代のビジネス構造を排除していく、いわゆる「中抜け」の時代であった。 僕は10数年前に『インターネットは儲からない』(日経BP社)という本を
「違法ダウンロード刑事罰化(罰則化)問題」というタグの付け方が、もしかしたら、すでに失敗だったのかもしれない。このネーミングの行く先には 「違法なら罰則があって当然じゃないか」 という感じの早呑み込みが待ち構えているからだ。 たしかに、普通の日本人の日常的な言語感覚からすれば、違法な行為に罰則が科されるのは極めて自然ななりゆきに思える。 それどころか 「違法無罰とか、むしろそっちの方がありえないんじゃないか?」 ぐらいな先走りさえ考えられる。 「つまり、津田っちは違法堂々みたいな世界を望んでるわけだな?」 「というよりも、イリーガル天国で脱法フリーダムなやりたい放題のインターネット社会を構築することが、ああいう連中の望みなわけで、結局のところ、金髪津田野郎一派は、既存の社会的枠組みを破壊したい分子なわけですよ」 と、まあ、ここまで決めつける向きは少数派だろうが、それでも、最初に「違法」と言
向谷氏は日本を代表するフュージョンバンド、カシオペア(現在は活動休止中)のキーボード奏者として名が知れ渡る一方、電車の運転シミュレーターを製造・販売する株式会社音楽館(東京都世田谷区)の社長として大忙しの日々を送っている。このことは日経ビジネス2月13日号の「旗手たちのアリア~鉄道に安心捧げる音楽家」でも紹介したことがある。 その向谷氏がこの日、薄いグレーの制服・制帽を身にまとい車掌に扮して登場すると、鉄道ファンたちのカメラから一斉にフラッシュがたかれた。敬礼のポーズを決めながら、初めて会ったはずのファンたちと古くからの知り合いのように大声で語り合っている間に、発車時刻が到来。17時49分、定刻通り大阪駅のホームを滑り出した夢のブルトレの行き先は、かつてなかった路線となる上野駅。しかも、ここから日本海側へ遠回りする長旅だ。 夢を現実にする発想力とエネルギー 向谷氏が以前から親しくしているド
岩崎:僕と川上さんは、同じ1968年生まれ。片やドワンゴという有名企業の会長、片や小説家と、仕事は全く違いますが、3年くらい前に知り合いました。そのきっかけについてまず話をしたいのですが。 川上:知り合ったきっかけというと、僕が自分のブログで、岩崎さんことを“揶揄”したんですよね(笑)。そうしたら、岩崎さんに怒られたんで、謝りに行ったという(笑)。 岩崎:怒ったというか、「文句があるなら会いに来い」みたいなことを書いたんですよ。これはその当時僕がよく使っていたフレーズで、いろんな人に対してそう言っていたわけです。そうしたら、川上さんは本当に会いに来てくださった。僕は、ブログの世界では有名でしたが、世間的には知られていなかった。一方、川上さんは、有名なIT企業の経営者であり、それこそ功なり名を遂げた人だったので、「この人は勇気があるな」と思ったんです。 ブログが結びつけた異色の二人 川上:岩
米グーグルが、スマートフォンやタブレット端末向けのアプリ配信で、初めての月額課金サービスを導入することがわかった。アプリ1本ごとに売り切りにしている現在の課金モデルだけでなく、毎月少額の料金を利用者から徴収できるようにする。 コンテンツの月額課金は、NTTドコモのiモードなどが成功させたビジネスモデル。アプリ開発会社は、毎月継続的な収入が見込めるため良質なコンテンツを開発できる一方、月ごとの課金が少額になるため、利用者の心理的負担も軽くなる。 グーグルが主導するアンドロイド陣営のスマートフォンは台数では米アップルの「iPhone」に肩を並べるものの、アプリ配信による収益化が課題だった。「日本発」の課金モデルを導入することでコンテンツ会社を囲い込み、アップル陣営に対抗する。 だが、新課金モデルはグーグルのアプリ配信基盤の上だけでしか認めない方針。新たな囲い込み戦略は、外部の課金基盤を使ってす
さて。ボーカロイドを解説する連載記事も、今回で最終回です。 ボーカロイドのことを知らなかった人も、このムーブメントの独自性を、少しでも感じていただけたでしょうか? これは、誰かが仕掛けたことによって生まれた、よくあるキャラクター・ビジネスとは違います。ユーザーが作った作品が、他のユーザーを刺激し、作品の創作を誘発していく。そんな機運があるからこそ発展した、なんとも独特のムーブメントなんですね。 曲を作る人のみならず、絵を描く人も、動画を作る人も、歌を歌う人も、踊りを踊る人も、初音ミクというキャラを組み入れた機械類を自作してしまう人も、みんながゆるやかにつながりつつ、みんなで参加して「何か」を作っています。そんな行為が、あらゆるところで同時多発的に発生しているのです。それが延々と続いていることこそが、ボーカロイド・ムーブメントの正体といっていい。 ビジネス的にいうならば、「ユーザーたちが勝手
前回まで、初音ミクのムーブメントの核にいるのは「楽曲を作っている人たち」だと書いてきました。 ここで訂正させていただきます。 このムーブメントの中心にいるのは企業ではない! 草の根のクリエイターたちが中心にいるのだ! という骨格を理解していただくため、あえて前回までは「楽曲の制作者」だけにスポットを当てていたのですが、それは厳密には間違いです。 初音ミクを支えているのは、楽曲を作る草の根クリエイターだけではありません。あらゆるタイプのクリエイターが、よってたかって参加しているところが、このムーブメントの最大の特徴なのですね。 もし、初音ミクのヒット曲の名前を御存じなら、その曲名で、ニコニコ動画やYoutubeを検索してみてください。楽曲制作者がアップロードした、いわゆる「本家の動画」だけでなく、膨大な派生動画を発見できることでしょう。 そこには、ヒット曲を「自分の声で歌ってみた」という動画
初音ミク? 知ってるよ! すごく人気のあるキャラクターだよね! 初音ミクという存在を、そういった形で理解している人も多いでしょう。 でも、それは、いちばん、やっちゃいけないことです。 そういう「ありきたりなキャラクタービジネス」に沿って理解しようとした瞬間、あなたは、けして初音ミクを理解できなくなります。なぜなら「初音ミク」は、もともとパソコン用のソフトに過ぎないからです。 それは、ヤマハが開発した「ボーカロイド」という音声合成技術によって歌を歌ってくれるプログラムであり、これがあれば、初音ミクをボーカルとした楽曲が誰でも作れるようになる――という便利なソフトに過ぎません。 初音ミクは、ただのソフトですから、自力では何もできません。ユーザーが「がんばってメロディを作り、歌詞を入力し、初音ミクに歌わせ、それを発表」して、やっと輝き始めます。ユーザーの努力によってのみ、その魅力を増していく、と
「ミクさん、マジ天使!」 とあるコンサート会場でのことです。聴衆たちは声をそろえ、そう叫びました。バーチャルシンガー・初音ミクに対する声援です。 初音ミクという名前を、みなさんも一度くらいは聞いたことがあるでしょう。緑色の長い髪をした女性シンガーです。ただし、彼女は世の中には実在しません。彼女の歌声は、「ボーカロイド」という技術により、パソコンで合成された歌声です。 ああ、一部の人たちが楽しんでいるムーブメントだよね。 ――と思っている方もいるかもしれませんが、いやいや、とんでもない勘違いですよ。いまの日本で、もっとも影響力の強いポップ・シンガーは、たぶん初音ミクです。 その証拠が、冒頭で紹介した声援です。 これ、日本での出来事じゃありません。2011年7月。コンサート開場は、ロサンゼルスにあるノキア・シアターです。ほぼソールドアウトとなった会場で、現地アメリカ(それ以外の諸国からも訪れて
小田嶋隆さんと濱野智史さんの対談シリーズも佳境に入り、今回はその4回目となりました。 お茶の間で家族そろって見るテレビと、個人が勝手につぶやくツイッター。これまで「マスメディア」と「ネット」はメディアの特性が全く違うので相性が悪いといわれてきました。でも、今回のお二人の会話では、どうもそうではなくて、ツイッターが作り出すネット上の“お茶の間感”が、マス・コンテンツの魅力を高めているようです。 ツイッターのタメグチ感覚が作り出す壁とは? 「評判資本」って? 今回もネットの生態系を濱野さんと小田嶋さんの会話で読み解いていきます。 (前回から読む) 小田嶋 この間会った、あるおじさん――って、評論家の平川克美さんですけど、平川さんが「昨年末の『NHK紅白歌合戦』が久しぶりに楽しかった」と言っていました。 ―― なぜかと言うと? 小田嶋 それは「ツイッター」のおかげで、ツイッターのタイムラインに「
非上場化した吉本興業の海外展開が加速している。フェイスブックを通じた情報発信にも力を入れ始めた。世界に通ずるお笑いとは何か? 次の成長源を模索している。 国内最大手のお笑い芸人エージェンシーである吉本興業が海外戦略を加速させている。 3月18日から開催される沖縄国際映画祭は今年で3回目を迎える。これに合わせて開催中の応募コンテスト「World Wide Laugh(ワールドワイドラフ)」では言葉に頼らずに世界中の人たちを笑わせる3分以内の動画を国内外から募集している。今年は動画投稿サイト「ニコニコ動画」を運営するニワンゴと初めて提携。優秀作品は沖縄国際映画祭の会場で表彰する。 募集開始とともに投稿された動画は米国から。初回だった昨年は米国や韓国に加えてアルジェリアからも作品が寄せられた。
「mixiもGREEもモバゲータウンも、テレビコマーシャルを展開してるんだよ」 「え?本当?」 「それどころかGREEとモバゲータウンは、いまやテレビ局にとってはトップ10に入る重要な顧客のはずだよ。2社のテレビCMを見ない日が無いぐらいだから」 「嘘でしょ!?信じられない!」 日本のソーシャルメディアの現状って「信じられない!」 10月28日、29日に開催されたデジタルマーケティングの国際カンファレンス「ad:tech tokyo 2010」。私自身もソーシャルメディアの効果測定に関するパネルディスカッションにパネリストとして参加しました。パネルディスカッションの前に米国とマレーシアのパネリスト2人と打ち合わせをした中での会話です。 この2人に聞かれたのは、日本のソーシャルメディアの状況についてです。米国や東南アジアでは米フェースブックが運営するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サー
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