国道沿いに、大判焼きの小さなお店があった。お店の前を通ると、おしるこをこがしたような芳ばしい香りがして、口のなかはいつも、3日も餌にありつけないノラ犬みたいに、よだれでいっぱいになった。 小学3年生のときのこと。アベ君と一緒にお店の前を通りかかると、いつものいい匂いがぷんと鼻をくすぐり、2人の口はまた、よだれであふれかえった(と思う)。 アベ君は「10円ある」といった。私のズボンのポケットには、5円玉が1枚。その日、母親から10円もらったが、アベ君と会う前に寄った駄菓子屋で、1円の飴を5つ買って食べてしまったのだ。 大判焼きは1つ15円。「半分コして食べよう」と2人は顔を合わせ、おそるおそる暖簾をくぐった。暖簾にはまだ、2人の背は届かなかった。 お店のなかは、コンクリートの土間に安っぽいテーブルが2つ。「ここで食べていいですか」とおじさんに聞くと「いいよ」という。子どもだけで、お店のお客さ