文明が滅んだ世界を舞台とした漫画『仲なおりのおまじない』が2023年8月、X(旧Twitter)に投稿された。とおい未来の世界にはガンダム像や“草”というネットスラングなど、なじみ深いものが多く登場するが、主人公たちは少し異なる認識をしているようで……。 現代と未来の認識のズレに可笑しさを感じてしまう本作はどのように創作されたのか。作者・ナカマチさん(@nakamachi_keiji)に話を聞いた。(あんどうまこと) 気になる作品はこちら
朝ドラ『らんまん』(NHK総合)における田邊彰久とは一体何だったのか。 田邊教授(要潤)の登場時、彼がここまで人間の持つさまざまな面を体現し、主人公と複雑な関係を築くキャラクターになるとは思ってもいなかった。せいぜい、小学校中退ながら流暢に英語を操り、フィールドワークで得た植物の知識を有する万太郎(神木隆之介)のことを面白がって東大植物学教室への出入りを許し、のちに万太郎にとって大きな障害となる人物……程度としか認識できていなかったからである。 だが、そんな予想を大きく裏切り、田邊は本作中盤において、単純な悪役でも、主役を導く師でもなく、槙野万太郎と対をなす第二の主人公として物語に存在した。 日本で最初に米国・コーネル大学で植物学を学び、国内における植物学の始祖となった田邊教授。女子教育の必要性を訴え、クラシック音楽とシェイクスピアを愛し、文部大臣の覚えもめでたい超エリート。本来であれば他
木星は天文学者にとって謎が多い惑星だった。内部構造がほとんど何もわかっていなかったのだ。この惑星がどのように形成されたかについて、NASAの探査機ジュナがある説を支持する証拠を探し当てたかもしれない。木星が自分の成長のために他の小さな惑星を「食べた」かもしれないという説だ。 ある惑星が他の惑星を食べるという考えは、SFの世界の話のように聞こえるかもしれない。まるで『スター・ウォーズ』のデス・スターが他の惑星を侵略したような話で、現実味がないように聞こえる。しかし、学術雑誌「Astronomy & Astrophysics」誌に発表された新しい論文によると、その説が有力になった。 NASAの探査機ジュナを使い、研究者たちは重力データを基に木星の雲の向こう側を覗き込むことに成功した。惑星表面を覆う厚いガス雲の奥を覗いた結果、核にある岩状の物質が、木星が成長の原動力としてプラネテシマル、つまり小
「超大作怪獣映画」とは何か? 先日、山崎貴監督の新作映画エキストラ募集が話題となった。タイトルは伏せられているものの、〈超大作怪獣映画〉で、時代設定は1945~47年の終戦間もない日本だという。映画全編がそうなのか、過去パートなのかは定かではないが、「港にいる船の乗務員たち」「港湾作業員」「元海軍の男たち」「闇市の通行や買い物客たち」「繁華街を逃げ惑う人々」「破壊された街の人々や警官、調査団員たち」「とある会議に集結する元軍人たち」等々のエキストラが募集されている。 戦後間もない日本に怪獣が現れる映画であることは間違いなさそうだが、オリジナルの怪獣なのか、それとも『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)や、西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド」で、1960年代の日本の町並みを背景に暴れさせた山崎監督によるゴジラ映画が遂に実現するのか、様々な憶測がネット上では飛び交っ
1970年から1972年まで竹宮惠子と萩尾望都が同居し、そこに同世代の少女マンガ家「花の24年組」を中心とするメンバーが出入りして「大泉サロン」と呼ばれた借家。それは少年マンガにおける「トキワ荘」と並ぶ、少女マンガ文化におけるひとつの伝説だった。 萩尾望都の側から見た残酷な事実 『少年の名はジルベール』(小学館) 竹宮惠子が自伝『少年の名はジルベール』(小学館/2016)で「大泉サロン」時代の話を書くと、この伝説には新たなベクトルが加わり、より神話性が強まっていった。接近し過ぎた若い創作者同士の思わぬ齟齬。竹宮惠子はそれを天才・萩尾望都への自分の一方的な嫉妬として描いている。 萩尾望都の語り下ろしである『一度きりの大泉の話』(河出書房新社)は『少年の名はジルベール』そのものというよりも、竹宮の本に対する反響で自分が被ったことへの返答として書かれている。これは単体で読む彼女の自伝というよりも
「暴力的な言葉を話すことに依存する人が増えている」 作家・星野智幸が語る、絶望的な時代における“言葉の力” 作家・星野智幸が新作『だまされ屋さん』を上梓した。谷崎潤一郎賞受賞作『焔』以来、約2年ぶりとなる本作は、古希を迎えた母・秋代と、それぞれに人生の問題を抱えた3人の子どもたち(優志、春好、巴)を中心に、現代の日本における家族、社会の在り方を様々な視点から捉えた作品。多くの人が生きづらさを感じている現在において、他者との連帯、前向きな関係性を作るためのヒントに溢れた家族小説だ。 南米文学的マジックリアリズムを取り入れた作風で知られる星野だが、『だまされ屋さん』では幻想的な要素を排し、リアリズムだけで小説全体を構築。延々と繰り広げられる会話とモノローグによって、登場人物たちが自身の問題に向き合い、言葉を獲得していくまでを丁寧に描いている。「混迷はさらに深まるだろうけど、いつかは底を打つ。そ
映画『鬼滅』大ヒットの「わからなさ」 10月16日公開のアニメーション映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』がもはや社会現象と呼べるほどの記録的大ヒットとなっている。公開3日間での興行収入は史上最高の46億円を突破した。この勢いは、4年前に興行収入250億3000万円を記録し邦画歴代2位のヒットとなった新海誠監督『君の名は。』(2016年)、さらにはもしかすると、19年間破られていない日本映画史上最高の興行収入308億円という宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』(2001年)の持つバケモノ級の記録を抜くことも不可能ではなくなってきている。この先も、テレビ、劇場用映画両方でのアニメ化続編や舞台、スマホゲームといったメディアミックス展開を考慮すると、おそらく本作が2020年代前半を代表する一大コンテンツのひとつに成長していくことは間違いないだろう。 『鬼滅の刃』や今回の劇場版『無限列車編』が、いったい
現在放送中の、アニメ版『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(以下『はめふら』)が好評だ。原作はWeb小説で、「一迅社文庫アイリス」から少女小説として出版され、『月刊コミックゼロサム』でコミカライズもされている。(関連記事:アニメ版『はめふら』、原作ファンも虜にする魅力 メディアミックス成功のポイントは?) コミック版『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』1巻 女性向け小説で人気のある「悪役令嬢もの」だが、TVアニメに進出したことで性別を超えて認知度も上がり、ジャンル自体への注目が高まっているようだ。まずはそのジャンルを築いてきた、代表的な作品を振り返ってみよう。 コミック版『悪役令嬢後宮物語』1巻 タイトル自体に「悪役令嬢」を打ち出した『悪役令嬢後宮物語』が2012年。架空の西洋風世界を舞台に、(いわゆる「現代からの異世界転生」ではなく)「
いよいよ最終局面に入った大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)。オリンピックに関わった日本人の姿を描いた本作は、明治・大正・昭和という近代日本を舞台にした歴史群像劇だ。劇中には実在した人々が登場し、一見荒唐無稽に見えながらも、ほぼ史実どおりに展開していくのだが、その背後では、気が遠くなるような膨大な量の取材が行われていた。 今回、リアルサウンド映画部では『いだてん』の「取材」を担当した渡辺直樹に、関係者遺族への許可取りも含めた取材現場の内幕について話を訊いた。渡辺が担った「取材」とは、宮藤官九郎の脚本作り、その前段階の企画制作のための膨大な資料集め、および史実関係の事実確認など。前人未到の挑戦となったオリンピック大河はいかにして作られたのか?(成馬零一) 誰を主人公にするかも決まっていなかった ―― 渡辺さんが『いだてん』でもチーフ演出を務める井上剛さんの作品
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