ドーナツが食べたい気分だった。でも朝から降り続いている雨はやむ気配もなく、ドーナツを食べるためだけに出かけるには億劫だった。そこで、とりあえずドーナツのことを考えてみることにした。 いま私が食べたいのは、ぎっしりした生地で、揚げたてで、サクッとしているあの手作りっぽいやつだ。もちろん真ん中に穴の空いている、ドーナツらしいドーナツ。そしてその穴のことを考えていたときに、久しぶりに思い出したのがこの文章のことだった。 しかしまあ,これはどうでもいいことだ。ドーナツの穴と同じことだ。ドーナツの穴を空白として捉えるか,あるいは存在として捉えるかはあくまで形而上的な問題であって,それでドーナツの味が少しなりとも変わるわけではないのだ。 「羊をめぐる冒険」/村上春樹 形而上ってのがどういう意味かは未だによくわからないけれど、つまりドーナツの穴はあるのかないのか、って考えることが形而上的な問題なのだろう