「マゴニアの空飛ぶ船と嵐を起こす者vs守護者」中世ヨーロッパの庶民の間で信じられていた異教的な言い伝えに「嵐を起こす者」がある。 九世紀前半、フランス東南部リヨンの大司教アゴバルドゥス(769年生、在任816~840年)(注1)は『霰や雷に対する愚かな信心を論駁す』で『この地域では、貴族や庶民、町に住む者や田舎に住む者、年寄りや若者など、ほとんどすべての人々が、霰や雷は人間が思うままに起こすことができると考えている』(注2)として詳しく紹介し批判した。以下野口洋二著『中世ヨーロッパの異教・迷信・魔術』(早稲田大学出版部,2016年)74-78頁より。 アゴバルドゥスによれば、人々は「嵐を起こす者(テンペスタリウス”Tempestarius”あるいはテンペスタリイ”tempestarii”)」が呪文によって雷や雷鳴を起こすと信じており、マゴニア(Magonia)とよばれる空想上の土地から空飛