あのころ、ぼくは大学を休んでバイトで稼いだ金を元手に、海外のさまざまな国を放浪していた。まだベトナムでは戦争が続いていたときの話だ。 その国の言葉でメウーリョと呼ばれる山間の農村地方へ行ったのは、首都にある小さなユースホステルで知り合った徴兵忌避者のアメリカ人からマリワナ煙草の巻き方とともに、いまの時期その地方へ行けば農家の手伝いの仕事が得られ、物価の安いこの国にしてはそこそこの収入になるということを教わったせいだった。 当時のぼくはすっかり日本へ帰る気をなくしていて、この国での滞在費用を稼げるのであればどんな仕事でもやろうという気分だったので、翌日には荷物をまとめて宿を引き払い、ポケットに残った小銭でメウーリョ地方行きの切符を買っていた。 車内はおろか屋根の上にまで荷物と乗客を乗せたバスで山道を走ること1日半、やっとたどり着いたマティロという賑やかな村で、望みどおりの仕事を得ることができ