「目の前でどんどん煮えていく寿司、食べたことある?」 Yは住んでいるところも職場もド近所の友達だ。ついでに行きつけの店まで一緒なので、うっかりすると毎日のように雑談するハメになる。その日もいつものようにどうということもない酒で、なんでもない話を楽しんでいた。 数日前に、雑誌に載っていた寿司屋に行ってきたばかりだとYは言った。記事はべた褒めだったし、実は前から気になっていた店だった。北海道から直送される魚の写真も、自慢の握りもたまらなく美味しそうだった。だから数日前から予約をし、ちゃんとジャケットを着て店へ出かけた。そして時間通りにドアを開け「予約していたYです」と告げたところ、思いがけない出迎えをされた。 「あ、寿司飯終わったから。寿司ないよ」な ん だ と 事前にちゃんと予約していたのに、寿司飯がないとはどういうことだ。いらっしゃいませより早く「寿司ないよ」じゃないだろう。閉店間際の真夜