戦前に活躍した女性作家の尾崎翠(1896〜1971年)が注目を集めている。鳥取出身で上京後、人間の「五官」を超え、「第六感」でもない「第七官」に響く詩を書こうとする少女を描いた小説『第七官界彷徨』を発表する。 だが32年に帰郷し、沈黙のうち死去した。『第七官界彷徨』が河出文庫から復刊され、今年3月、川崎賢子氏(54)は、「七」とは何かなどを探った評論『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)を発表した。 さらに今月、尾崎が27年に書いた同名の映画脚本をもとにした津原泰水氏(46)『琉璃玉の耳輪』(河出書房新社)が刊行された。女探偵を登場させる話の核は残し、当時の風物や人物造形などを補って長編小説に仕立てた珍しい試みだ。「情緒に流されず、理知的な尾崎文学への入り口になればいい」