「あの本をどうしよう……」 奈良の実家の親から「実家を売ろうと思っている」と電話で言われた時に、私の脳裏に最初に浮かんだのは、実家に溜め込んだ本やCDのことだった。 小さい頃からの本好きが高じて図書館に職を得ているが、そもそも、私は「床が抜ける」ほどの本もCDも持っていない、その辺にいる「ちょっと本と音楽が好きな一社会人」である。読書量にすれば年間100冊も読むかどうか。職業柄、本を大量に購入・所蔵する必要がある人々と比べれば、所詮は趣味、多寡が知れている。おまけに、結婚して子どもが産まれるに及び、本やCDを買うお金も、置くためのスペースも極めて限定されるようになってしまった。結果として、蔵書点数の伸びはここ数年、鈍化する一方だ。 それでも、増えた。故・草森紳一氏は、 「本はなぜ増えるのか。買うからである。処分しないからである。」(『随筆 本が崩れる』、文藝春秋、2005年) と書いている