人間特有の精神的諸現象を物理的世界に定位するための、戸田山氏の戦略は、容易に予想されるように、進化論に訴えることである。つまり、「意味」その他、特殊「人間的」と見られがちな「存在もどき」を、物の中から生物が生じ、それが進化してくる進化の歴史の中に位置づけ、いわば物理的世界と精神との連続性を印象付けようというもの。 このとき、進化の説明を、ある機能を身につけることが生き残りにより有利であるとして説明しがちであるが(たとえば、推理的知性を身につけた方が生き残りやすいから、その進化が起こった)、考えてみれば、そのような機能を身につけていないより「下等」な無数の生物が、同様に生き残っているのである。 何かの機能を身に付けた種は、それによって何かを犠牲にしてもいるはずである。哺乳類の子育ては、子孫の生存率を高めたが、同様に卵の数を減らした。進化によって、種が多様化し、さまざまな環境への適応力が生まれ