あのひとの心は壁で守られています。 あのひと好きだなあ、こっち見てくれないかなと思って、壁伝いにくるくるまわって探しても、入り口などありません。それでもどうしてもあのひと人の心にもっと近づきたいなあ、こっちを見てくれないかなあと思ったら、自らの手に持ったナイフであのひとの心の壁をさくっと切り裂いて自分が入れるだけの穴をあけなければなりません。 ナイフを突き立てられるのですから相手はもちろん痛いです。自分が好きなあのひとが痛がるのを見るのもまた痛いことです。でも、どうしても心に近づきたいのだから仕方ありません。心の壁を傷つける、そして中に入る、それしか道はありません。 昔々、人魚姫は王子様の心の壁に傷を付けることが出来ませんでした。王子様が痛いとかわいそうだからと。かわいそうな王子様を見るわたしがかわいそうだから出来ない、と思って悩んでいるうちに朝になり、海の泡になり、空気の精霊になってしま