わたしが中学生のころ一番好きだったのは、美術の先生だった。良い声でまるで本を読むような調子のしゃべり方で彼女はこう言った。 「みなさん!!なりたいものを みっつ持ちなさい。」 提出期限本日の飛び出すカードを仕上げるために机ぎりぎりまで目を近づけ、わたしたちは聞いていた。先生は教室を低空飛行しながら続けた。 「先生が一番目になりたいものは、芸術家でした。二番目は保母さん。そして 三番目は美術の教師でした。」 先生は音もなく教壇の上に戻り、 「ほらね?誰でもみっつのうちのどれかには必ずなれます。」 ・・・だとしたらわたしは・・・、 一番目が恋愛漫画家、二番目はインテリア コー ディネーター。 三番目・・・三番目は・・・・・・・。 いつのまにか先生が肩のところにいて、今作り上げたばかりの‘飛び出すカード:タイトル・梅雨の街’をじっと見ていた。 「もちさん、先生にこれくれる?」 「は、はい。」 あ