近年「右」の台頭に抗すべく期待が寄せられているのは「左」からのポピュリズムであり、日本でもここ数年の関連書籍に続き今年はシャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』、エルネスト・ラクラウ『ポピュリズムの理性』(ともに明石書店)が刊行されている。その際世界各地での「有望」な事例が参照されるとして、それで以て日本で既に興った事例の総括を怠るべきでない。とは、昨今のそれは反緊縮が主流とはいえ、官なる「上」に抗して「下」から支持された民主党政権の誕生は左派ポピュリズムだったし、「アベ政治」に反対する国会前の「野党は共闘」運動及びそれを前後する彼是も同様の流れを汲んでいた。 「我ら」と「彼ら」の敵対性に拠り民主主義の主体を築くラクラウ&ムフのポピュリズム論はかねてから知られており、紙幅の都合もあるため詳述は措き、ここで小泉義之『あたかも壊れた世界――批評的、リアリズム的』(青土社・2019)から次に