追われる夢をよく見ていた。追う者の影に怯えながら、薄暗い森や冷たい洞窟や広大な屋敷や緑の迷路や、あるいは何の変哲もない凡庸なオフィスビル、閑静な住宅街、放課後の校舎、見覚えのない場所と見覚えのある風景の中を、わたしは必死で逃げ惑う。追う者が誰なのかはわからない。なぜ追われているのかもまるで見当がつかない。しかし、とにかくわたしは逃げる。そういう夢を繰り返し見た。そしていつしか見なくなった。悪夢から解放されると、眠りが深くなったのか、夢自体を見ることも少なくなる。それからしばらくはそうだった。けれどまた夢を見るようになった。今度は追われる夢ではなく、追う夢だ。わたしは夢の中で夫を追う。彼がいる場所はわかっている。よってそこに行きさえすれば会えるはず、なのだけれど、いるはずの場所に夫はいない。 そこにはいつもたやすく辿り着く。彼が待っているという確信だってある。その場所を訪れたとき、だから胸を