中国には「国恥地図」と呼ばれる古地図が残っている。列強の半植民地支配を受けていた1世紀ほど前に中国各地で作られた。激烈な名前が示す通り、侵略で失われた土地を強調し、人々の義憤と愛国の情を呼び起こすためのものだった。そこに「かつての国境」として描かれている線は、いまの中華人民共和国のほぼ倍の面積を囲っている。地図が示す、広大なアジアに広がる範囲は、中国の人々が考えていた「あるべき祖国の姿」だったといえる。 2月、ウクライナ侵攻という暴挙に出たロシアのプーチン大統領は「ウクライナは我々の歴史の一部である」と語り、暴挙を正当化しようとした。その言葉ににじむのは、ロシアが巨大な版図と影響力を誇った帝政時代へのこだわりだ。近代化やソ連崩壊の過程で失った土地や威厳を取り戻そうとするプーチン氏のロシア。その根っこに、台湾や南シナ海をめぐる中国の主張につながる何かを感じとった人は少なくないだろう。 シンガ