「非情」と「冷徹」。どちらも監督・落合を表現する言葉だろう。表情や言葉が少ないだけにもともと情が薄いと受け取られやすい。ただ、このイメージが決定的になったのは、中日を半世紀ぶりの日本一へと導いた2007年の日本シリーズだった。 11月1日、日本ハムを本拠地に迎えた第5戦、中日が日本一へ王手をかけたこの試合で先発を務めた山井大介は驚くべき快投を見せた。ストレート、スライダーとも抜群に切れていた。まったく相手を寄せつけず、8回までひとりの走者も許さなかった。日本シリーズで初めて完全試合が達成されるのか。イニングが進んでいくにつれ、すべての視線が山井に注がれていった。 そして、敵も、味方も、球場全体がプロ野球史上初の快挙を待ち望んでいた9回表、落合は日本中を驚かせる決断を下した。ゆっくりとベンチを出ると、無表情で審判に告げたのだった。「ピッチャー、岩瀬」 その瞬間、スタンドからは悲鳴が聞こえた。