「お母さんが肺がんだって。でも心配しなくて大丈夫だから。治るから」携帯電話から聞こえる父の声は、自分に言い聞かせているようでした。 告知の電話を受けたのが、2007年1月15日でした。あれから約10ヶ月。母はひとり、戻らぬ旅に出てゆきました。 もう父からの着信に、心臓が止まる思いをする必要がないという点については、ぼくホッとしています。 母が病院に行く日は、いつ電話が鳴るのか朝から不安でしたから。 母のいた部屋から咳が聞こえないという点についても、ぼくはホッとしています。 仕事の行き帰り、母の咳が聞こえてくると胸がしめつけられました。一生、終わることがないかもしれないその咳に‥‥。 そして母は、戻ることのない旅にでました。 亡くなってから10日が経ちましたが、未だ現実感はありません。まだ病院に入院しているのでは、というくらいに思えます。 引き出しを開ければそこに、冷蔵庫を開ければそこにも、