『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』(清水克行 著)新潮社 「おまえのカアちゃん、でべそ!」 この子供同士が使う悪口には、素朴な疑問が浮かぶ。なぜ相手の母親のでべそを指摘するのが悪口なのか。なぜ発言者は相手の母がでべそであることを知っているのか。この言葉のルーツは、鎌倉時代の「母開(ははつび)」という悪口(あっこう)にあった。そこに秘められた、卑猥で強烈な意味とは――。 『室町は今日もハードボイルド』は、室町時代ブームを牽引してきた歴史学者の清水克行さんによる歴史エッセイだ。身の回りや時事的な話題を枕に、逞しく生きる中世人の驚愕の言動を次々と明らかにしていく。 「最近、和を尊ぶはずの日本人による、SNSでの激しい誹謗中傷が問題視されていますが、自力救済の世に生きた中世人は、悪口で激しく相手を罵って自己の利益を守ろうとしました。本質は変わらない。私たちの日常が意外と歴史